2020年度 卒業研究

キャリアハンドブック「Career+」の制作

学生がキャリアを考えるきっかけづくり

1711084 吉川 麻衣

●背景と定義

大学生のキャリアに関する事前調査によると、大学卒業後の進路では「就職」が一般的であるが、初職後 1 年未満に「仕事が自分に合わなかったため」といった理由で離職してしまう人もいる現状があるうえに、進路状況は学んでいる分野によっても異なることが分かった。就職は大学卒業後の進路として安定した選択だが、自身に合ったキャリアを築いていくためには、就職に限らずに自分に合致した働き方を選ぶことが大切であると考える。以上のことを踏まえ、学生がキャリアを考えるきっかけを促す媒体や、学んでいる分野や大学に対応したキャリア支援が必要になると考える。

なお、本研究でのキャリアとは、「人の一生を通じての仕事、生涯を通じての人間の生き方」と定義する。

●目的と仮説

本研究の目的は、以下の2 点である。

本研究の制作物により、ターゲットである本学デザイン学部生が自身のキャリアを見つめ直す機会を得て、キャリアについて自分事として捉えられるようになることを最終到達地点と定める。

上記の目的を達成するにあたり、制作物に取り入れる内容に効果的であるとして、以下2 点の仮説を立てた。

●研究プロセス

本研究でははじめに、キャリアに関するアンケート調査や、キャリアに関する文献比較といった事前調査を行った。事前調査を踏まえ、プレ制作を行った後、本制作を行った。その後、電子データを用いた検証1 と紙媒体を用いた検証2 を行った。

●事前調査の結果

キャリアに関するアンケート調査や文献調査から、本研究におけるキャリアの効果的な表現方法について以下5点を導き出した。

●制作

事前調査をもとに、本研究ではA5サイズのキャリアハンドブック(図1)の制作を行った。

図1
図1 ハンドブック

(1)ターゲット

本学独自の「キャリアを考えるきっかけ」をつくり、本学独自の情報を含めて伝えたいと考えた。また、本学デザイン学部生が想定している多様な働き方も踏まえ、ターゲットは本学デザイン学部生に限定した。

(2)コンセプト

コンセプトは「キャリアの見える化」である。キャリアに関する様々な情報をビジュアライズして表現し、制作物により学生が自身のキャリアを考えるきっかけをつくることを目指す。ハンドブックは最終的にキャリア支援室に寄贈し、閲覧できる状態にしたいと考えている。

(3)制作物の特徴

ハンドブックはキャリア編とマナー編の大きく2つの章で構成されており、以下の4STEP にそって展開している。

STEP1-3 はキャリア編、STEP4 はマナー編である。各ステップの狙いとしては、STEP1 では自己分析用のシートに書き込みながら自分自身を知る。STEP2 では基本的なワークルールを知ることで社会について知り、「働く」ことへのイメージを具体化させる。STEP3 では大学卒業後の多様な進路について知り、インタビューなどを通してキャリアについて自分事として捉え、自分に合った働き方を模索する。STEP4 では基本的なビジネスマナーなどを身につけることで、社会に出る準備をする。以上、4 つのステップを経ることで、ハンドブックを閲覧した学生が自身のキャリアを考えるきっかけを与える。

●検証

制作したハンドブックが、学生がキャリアを考えるきっかけになるかを検証したいと考え、本学デザイン学部の1-3年生に検証への協力を依頼した。アンケートは「Google フォーム」を用いて作成し、アンケートフォームのURL を対象者に送付することで回答を得た。同時にハンドブックのPDF データのダウンロードURLも添付し、アンケートはハンドブックの閲覧後に回答いただいた。最終的な有効回答数は4件(1年生:2件、3年生:2件)であった。

検証結果については、一部を抜粋して以下に記す。

図2
図2 考えたことがあった大学卒業後の進路・働き方と新たに検討してみようと思った大学卒業後の進路・働き方

図3
図3 キャリアを自分事として考える上で参考になったか

回答数が十分ではないものの、ハンドブック閲覧前より閲覧後は、ハンドブックが「進路や働く選択肢」の視野を広げるきっかけになることができたといえる(図2)。4年生への就活アンケートやインタビューについては、いずれの項目も、キャリアを自分事として考える上で全員が「参考になった」と回答した(図3)。実際に印刷し、使用した学生からは、他のWebサイトや書籍と比べて分かりやすく、参考になったと高評価をいただくことができた。ハンドブックが自身のキャリアを考えるきっかけになったかについては、全員が「非常になった」と回答した。

アンケート全体について、予想以上に高評価をいただくことができた。具体的な使用感想も得ることができたので、ハンドブックを制作するうえでの狙いや意図が学生に伝わっていると実感することができた。

●結論

検証1 より、本学ならではの情報をハンドブックに取り入れたことは、キャリア編で「本学生の実情を知れる」といった意見をいただいたうえ、マナー編では「本学生向けである」ことを意識づけることができた。これらのことから、仮説1 の効果は確認できた。また、ハンドブック閲覧前と閲覧後で「進路・働き方」の選択肢を増やすことができ、学生自身のキャリアを考えるきっかけを与えられたといえる。このことから、仮説2 についても効果を確認することができた。仮説1・仮説2 の効果を確認できたことから、本研究目的も同時に達成できたと考えられる。

しかし、検証1 では回答数が十分ではなかったため、検証2ではより多くの回答数を得ることで、この結論に関するより確実な根拠を示す必要がある。

●展望

本研究で制作したハンドブックは、ターゲットを本学デザイン学部生に限定したものであったが、他大学に対応したハンドブック展開をしていくことも可能であると考える。各大学の学生に対応したキャリア支援を行っていくことが、学生がより自身に合った「働き方」を選択するためには重要であるうえに、他大学と比較しより自身の専門性も認識することができる。そうすることで、学生はより自身を知ることができ、なりたい自分への構築へとつなげられることが期待される。