2021年度 卒業研究

オリジナル化粧品「Lazuli」のブランディングデザイン

デザイン展開プロセスとポスター広告の提案

1811002 阿部 有紗

●背景・目的

本研究は、筆者が総合実習Ⅲで提案した「Lazuli」という化粧品ブランドのポスター広告制作を行うものである。そのために、はじめに化粧品広告に関する先行研究とアンケート調査から考察を行った。その後、ブランディングの一連のプロセスを明確にすることでコンセプトに沿った広告制作を目指した。研究方法は、「Lazuli」のブランディングデザイン、先行研究の考察、アンケート調査、制作の順で行った。なお本研究におけるブランディングデザインとは、「ブランドを構築する上で必要とされるデザイン面全般」のことをまとめて指す言葉として定義する。

オンラインの形式の広告が主流となっている現代でポスター広告の制作を目的としたのは、オフライン広告の特徴である「露出が保証される」という点を利用し、ターゲット層にブランドの存在をアピールすることを目指したためである。従来のポスター広告は主にモデルが主体のものや製品のパッケージが主体のものが多く見られる。それらのポスターはブランドや商品の雰囲気を汲み取ることは可能だが、実際の化粧品自体の色味や質感、使用後の自分のイメージが伝わるものは少ないように思える。こうした手法はポスターを見たユーザーの中のイメージと実際の使用後の完成度でズレが発生してしまう可能性があると考えたため、本研究で提案するポスターは従来のような手法を用いず、なおかつブランドのコンセプトが伝わるようなポスター広告の制作を目指した。

●先行研究とアンケート調査

1995年に発行された関連研究の論文を参考に90年代の化粧品ポスターの調査を行い、従来の化粧品ポスターの特色と効果を考察した。

先行研究からわかったことは、ポスターにモデルを起用するとモデル自体に注目が集まってしまうという点である。また、90年代と現代の違いとして、広告の形態が幅広くなったということが確認された。

先行研究の調査ののち、現存する化粧品の広告ポスターにどのような特徴があるかを探るために、要素ごとにグループ分けを行った。グループ分けからわかったことは、モデルがメインとなるポスターの数が一番多く、他にも製品のパッケージと背景のみが映るポスターやイラスト調のポスター、人物と製品の比率が同じ程度のポスターも多少見られた。

その後、現存する化粧品広告ポスターの印象を調査するためにアンケート調査を行った。アンケートの概要は以下のとおりである。

また、別期間に、メイクに対する意識調査と、ユーザーと化粧品・化粧品広告のコンタクトについてのアンケートを行った。アンケート概要は、下記のとおりである。

先行研究とアンケート調査から、90年代と現代ではポスター広告の立ち位置が変化し、現代の方がよりポスター広告が重要となっているのではないかと考察した。そこでブランドのポスターを制作することにしたが、「Lazuli」のコンセプトに基づいたポスター広告を制作するためには、モデルを用いてメイクの一例を示すよりも、ユーザー一人一人に対して使用シーンや自分に似合うかどうかのイメージをさせるような内容が適していると考えたため、それをポスターの方向性として制作に取り組んだ。

●ブランディングデザインとポスター制作

ブランドのコンセプトを決定するために、まずキーワードの抽出を行った。メイクや化粧品に対するイメージや解決したい事項、実現したいことを思いつくだけポストイットに書き出し、自身の思考の整理を行った。キーワードをもとに画像を選択しイメージコラージュを行うことで筆者自身の中にあるぼんやりとしたイメージを可視化させた(図1)。

図1
図1 完成したイメージコラージュ

キーワード抽出とイメージコラージュにより、コンセプトのイメージがはっきりとしてきたため、次にブランドのターゲットを決定した。ターゲットが、メイクに対して様々な悩みや考えを持った人が混在する層であろう18.25歳の女性に定めた。

キーワード抽出とイメージコラージュにより、コンセプトのイメージがはっきりとしてきたため、次にブランドのターゲットを決定した。ターゲットが、メイクに対して様々な悩みや考えを持った人が混在する層であろう18.25歳の女性に定めた。

その後キャッチコピーやブランド名、ブランドのロゴを決定し、製品デザインを行った。製品はフェイスパウダー・リップスティック・アイシャドウの3種類の化粧品を構想している。化粧品自体の中身のカラーは、どんな人でも似合う色が見つけられるよう、色味の偏りをなくした。リップスティックとアイシャドウはそれぞれ黄みが強いものと青みが強いものとニュートラルなものがバランスよくなるように考案した(図2)。

図2
図2 プロダクトイメージイラスト

また、化粧品のカラーごとにオリジナルの色名と、アイシャドウにはストーリーを設定している。化粧品を使うシーンの一例をストーリーとしてユーザーに示すことで、ユーザー自身にどんな場面でどのようなメイクをするかを想像させることを狙った。

●ポスター制作

本制作では幅2700×高さ900mmのポスターを制作した。制作したポスターを図3に記す。

図3
図3 制作したポスターデータ

モデルが主役となっているポスターは「Lazuli」のコンセプトに基づいていない手法であると考えたため、今回制作したポスターにはモデルを起用していない。ポスターはアイシャドウとリップスティックの色味、キャッチコピー、ブランドのロゴマークのみで構成している。ポスター全体の背景は化粧品の色味がはっきりと目立つように黒でデザインし、構成要素とポスター内の情報をなるべく少なくすることで見る人の興味関心を集めることも同時にねらいとしている。キャッチコピーはブランドコンセプトの提示とユーザーへのメッセージの役割を担っている。

●まとめ

本研究は、プレ卒研 で提案したオリジナル化粧品ブランド「Lazuli」のポスター広告を制作することを目的としてきた。制作するポスター広告の方針を決定するために、先行研究とアンケート調査から考察を行った。調査を通した考察と発見から「モデルとパッケージを使わないポスター広告」という方向性に絞り込んだ。その後ブランドのコンセプトをデザインに含ませ、最終的に4で解説したようなポスター広告を制作した。結果として、現在のトレンドでない、あまり見られない手法のポスター広告を制作することができたのではないかと感じる。

今後の展望としてターゲット層にあたる人々に実際にポスターを見て評価してもらうということやブランディングデザインの詳細化が挙げられる。現時点ではまだ課題や改善点が何点か存在しているため、今回の研究で行ったブランディングデザインはほんの一部であることを実感した。前述した課題や改善点をクリアしていくことが、ブランドのさらなる成長につながると推測する。