2021年度 卒業研究

coomoo(コモ)

身近な人にメッセージを伝えるパッケージデザインの提案

1811013 川上 莉奈

●背景

パッケージデザインは、中身の商品を保護することや商品の価値を効率よく伝えることなど、代表的な役割の他にも、様々な役割を持っている。

プレゼントやお土産を渡す場面では、贈る相手の顔を思い浮かべながら選び、日頃の感謝や労いを込めて贈ることが、1つのコミュニケーションとなる。このような場面において、パッケージデザインは贈る側と贈られる側のコミュニケーションツールの1つであり、贈る側から贈られる側へのメッセージの具現であるといえる。コミュニケーションのデジタル化が進む昨今で、パッケージデザインは手紙やメッセージカードに代わり、メッセージを伝達する手段にもなり得るのである。

●目的

本研究の目的は、身近な誰かにプレゼントやおみやげを渡す際に、パッケージを通してメッセージを伝えることができるパッケージデザインの提案である。この提案により、パッケージが手紙やメッセージカードに代わる新たなメッセージの伝達手段のひとつとしての役割を持つことに繋げたいと考えている。

●ターゲット

本研究におけるターゲットは20~30代の男性とした。これは比較的、女性よりも男性の方が手紙やメッセージカードを書く機会が少なく、書くことに苦手意識を持っている人が多い傾向にあるためである。この提案によって、ターゲットである男性が、身近な誰かにメッセージを気軽に伝えられるきっかけが生まれることが、本研究の最終的な目的である。

●コンセプト

手紙やメッセージカードを書くことに苦手意識を持つターゲットが、身近な人に贈り物でメッセージを伝えることが出来るパッケージを、本研究の提案物とする。提案物のコンセプトは、「手紙より気軽にメッセージを伝えることが出来るパッケージ」とした。また、提案物の商品名は「communication」の頭の3文字をとった”com”と、「これからもよろしく」という言葉をギュっと固めた2つの意味を合わせて、”coomoo(コモ)”とした。

●仕掛けの試作

事前に行った調査により、男性が手紙やメッセージを書くことに苦手意識を感じるのは「恥ずかしい・照れくさい」「面倒」などの原因があることが分かった。そこで、この”恥ずかしさ・照れくささ”を解消するためのアプローチとして、パッケージに仕掛けを施してメッセージを伝えるという方法をとることにした。本提案物に施す仕掛けは、パッケージを開け閉めする動作でメッセージが見え隠れするというものだ。

本提案物に取り入れるのは図1のような仕掛けである。これは仕掛け絵本やポップアップカードで使われる、スイッチカードやチェンジングカードなどと呼ばれる手法である。スリット状になったパーツを組み合わせることで少ないスライド量で一面絵柄を変えることができる。

図1
図1 スライドすると絵柄が一面変わるしくみ

次に、このような仕掛けを取り入れたパッケージの設計及びグラフィックデザインを行った。この仕掛けでは可動域が決まっており、パッケージのサイズをふまえると、約3~4cmになる計算であった。そのため、仕掛けの動作に制限されて、スリーブ箱の中の全体を取り出すことが出来ないのが問題点であった。そこで、箱を3層構造にするという方法をとることにした(図2)。外箱の中に中間箱、中間箱の中に中箱、中箱の中に渡すものを格納する構造になっており、仕掛けは外箱と中間箱の間で動作する設計である。

図2
図2 パッケージの構造

また、パッケージのサイズに しては、郵送する場合も考慮して、ヤマト運輸やゆうパックで共通している仕様の60サイズに納まるサイズで設計した。 郵送のための梱包も加味して最終的な3辺の合計が60サイズになるよう、余裕のある寸法を設定している。

●最終制作物

試作品を元にして、本研究の提案物である「coomoo(コモ)」のモックアップ製作を行った。まず、コンセプトにそってロゴデザインや、パッケージのグラフィックデザインを検討した。その後、試作からいくつか変更を加え、完成したモックアップが図3である。また、利用シーンの幅を広げるため、サイズ展開の検討をし、ギフトカードや金券等を送ることが出来る封筒サイズのものも追加製作した(図4)。

図3
図3 「coomoo(コモ)」のモックアップ

図4
図4 「coomoo(コモ)」封筒サイズのモックアップ

●検証

製作した「coomoo(コモ)」がターゲットにとって利用しやすいものであるか、メッセージを書く機会に繋がるかどうか、検証を行った。

検証は、本研究のターゲットに当てはまる対象者6名に「coomoo(コモ)」のモックアップを動画で見てもらい、仕掛けの概要を説明した上でアンケートをとるという方法で行った。質問項目は以下の4点である。

検証結果をまとめると、全体を通しては、メッセージを書き入れたいという回答が多く、伝えたいメッセージを書いて伝えるきっかけとして効果的であると感じることが出来た。また、印象的であった回答の中には、パッケージのサイズについての言及があった。サイズ展開は商品化を考える上でも検討すべき重要な問題であると考える。

●まとめ

検証より、本提案物は、男性が身近な人にメッセージを送るきっかけとして、効果的であると感じることが出来た。しかし、実際にターゲットから身近な人へ贈り物として渡してもらうという検証はできなかったため、よりリアルな意見を聞き出すことが出来なかったのは、後悔が残る結果となった。

今後の展望としては、まず、検証で得た意見を踏まえ、「coomoo(コモ)」のサイズ展開を増やすことで利用できるシーンを広げたいと考えている。郵送する場合を想定して、今回の製作では、ヤマト運輸とゆうパックの仕様である60サイズに対応したものと、ギフトカードや商品券を入れてポスト投函することができるものの、2つのサイズを設定した。今後は、他の郵送方法や、様々な利用シーンを視野に入れ、サイズ展開を検討したい。

加えて今後は「coomoo(コモ)」をギフトボックスとして実際に販売することを想定し、販売方法やプロモーション方法についても検討したいと考えている。