2022年度 卒業研究

「パケ買い」しやすい商品パッケージ

つい手に取ってしまうパッケージデザインの要素分析

1911057 永井 竣

●背景

近年のコンピュータグラフィックス技術の発達によって、誰もが簡単な操作でハイクオリティのビジュアルをつくることが可能になった。ビジュアルデザインをつくるための知識や手法がある程度確立されたことで、どこか見たことのあるようなビジュアルに落ち着くケースが多いように感じる。ビジュアルデザインの役割は、セオリーに従ってわかりやすく「伝える」ことだけではなく、ときには奇抜なビジュアルで、消費者の「目を惹く」ことも重要である。

筆者は、ビジュアルづくりに関心をもって4年間学ぶなかで、他との差別化を図りながら、目を惹く強いビジュアルを作るにはどうしたらいいのかという大きな疑問を以前から持っていた。そこで、『目を惹くビジュアルにはどんな要素が必要か』をテーマとして制作を行うことにした。

●目的

『目を惹くビジュアルにはどんな要素が必要か』を明らかにし、制作へと応用することである。

●コンセプト

「目を惹く」ビジュアルである。

●事前調査

視覚表現について改めて理解を深めるために、視覚認知や視覚色彩心理について基礎的な事項の事前学習を行った。

つぎに、「目を惹く」ビジュアルの要素を探るために、筆者が目を惹かれた先行事例200 作品の収集と、その要因の言語化による分析を行った。

その結果、①ハッキリとしたコントラスト、②複雑なモチーフ、③余白が効果的な構図、④繊細な質感表現、⑤個人の好みのスタイル、という5つの要素が、収集した多くの作品に共通していることがわかった。

●テスター実験

事例分析の結果を踏まえ、「目を惹く」ビジュアルの要素を抽出した。テスターとしてデザインしたフリーペーパー6種を学内に1 週間のあいだ設置したところ、ほとんどを手に取ってもらい、他者からも「目を惹く」ビジュアルを制作できていることが確認できた(図1)。

図1
図1 制作したテスター6点

●タイトルの決定

ここまでのプロセスを踏まえて、制作タイトルを「VISUATTRACTION」に決定した。これはVISUAL(視覚的な)とATTRACTION(引力)を複合した造語であり、視覚的に引きつけられる、目を惹く、という意味をこめて決定した。

●「目を惹く」の再定義

「目を惹く」を「受動的な状態から能動的な状態へ変化すること」として定義し、具体的に以下の3段階へ分解した。
フェーズ1:注意を引く/フェーズ2:考えさせる/フェーズ3:心を掴む

●プレ制作・展示

事例分析とテスターの反応を踏まえ、プレ作品のB1サイズポスター4点(図2)を制作し、本学スカイウェイにて1週間の展示を行った。

図2
図2 制作したプレ作品

●印象調査

プレ作品に対して、アンケートとインタビューを用いた印象調査を実施した。

アンケート調査は、「意図した要素で注意を引けているか」「『フェーズ3:心を掴む』が達成できているか」を目的として実施し、幅広い年代から68件の回答を得た。作品ごとに最も気になった要素を選択肢から選ぶ、好感度を5 段階評価する、といった項目を設けた。回答者の半数以上が、「意図した要素」が最も気になる、評価3以上の好感度であると回答し、ビジュアルの効果を確認できた。

インタビュー調査では「アンケートでは回収できない詳細な印象の抽出」「⑤個人の好みのスタイルは、目を惹くビジュアルに直結するのか」を目的として実施し、本学デザイン学部生を中心とした15名から回答を得た。作品ごとに目を惹いた要素や、最も好感のある作品とその理由などをヒアリングした。その結果、事例分析から得られた5つの要素は他者の「目を惹く」ことにも有効であることの確認や、会話の中から、新たに目を惹く要素を発見できた。

印象調査によって得られた結果から、各フェーズにおける目を惹くビジュアルの要素は以下の通り(図3)であることがわかった。

図3
図3 各フェーズにおける目を惹く要素

●最終制作

目を惹くビジュアルの要素を複合的に構成し、最終作品の制作と展示を行った(図4)。

図4
図4 制作した最終作品

『目を惹くビジュアルにはどんな要素が必要か』を明らかにし、制作へと応用することができた。

今後は、デザイン実務において、引き出しのひとつとして応用できるのでないかと考えられる。