2020年度 卒業研究

Qtto

「贈りたい」を繋げるギフトボックスの提案

1711023 喜多 音葉

●背景・目的

贈答という行為は個人、集団間のコミュニケーションの場において大きな役割を担っていると言える。お歳暮やお中元といった日本の贈り物文化は、時代が移り変わっていく中でも、時代を超え継承されている。

今もなお残る習慣である贈答だが、その一方で贈り物を贈る対象が変化してきている。小俣荘子は『お中元・お歳暮はなぜ贈る?起源と歴史、現代のルールを知る』で「企業同士など付き合いのやりとりは減少傾向にあり、両親や親族といった、日頃の感謝を伝えたい相手が中心となってきている。」と述べている。

さらに贈り方にも変化が見られる。ソーシャルギフトのように、相手に手軽に贈る贈答文化が生まれ、今後もソーシャルギフトへの関心や普及率は今後伸びていくと推測される。ソーシャルギフトはソーシャルネットワーキングサービスを使って相手に贈ることができるため、贈りたい時に容易に贈ることができ、便利なサービスであるといえる。その一方で相手を想いながら自分自身で包装し、贈るという文化が希薄になってしまわないかと考えた。そこで相手を想いながら自分で包装するという行為を、贈り物を選ぶ行為と送る行為の間に経由させることで、贈り物に対する想いが強くなるのではないかと考え、本研究の着想にいたった。

本研究では若者に贈答文化の大切さを気づいてもらうことと、「贈りたい」という気持ちのサイクルを生み出すことを目的にギフトボックスを提案する。

●調査

研究背景でも述べているソーシャルギフトの普及率や若い世代の贈答の状況をそれぞれ以下の項目でアンケートを作成・実施をした。77.3%の人が日本の伝統的装飾(熨斗、水引、風呂敷)をあまり使わない、またはまったく使わないと回答した。また図1からわかるように、熨斗、水引、風呂敷いずれも利用される場面が少なく、身近に感じられていない傾向があった。その中でも水引がもっとも身近ではない装飾であるということがわかった。

図1
図1 アンケートの結果

水引は若い年齢層から遠い存在であるが、汎用性が高く、現在は新しい表現方法が生まれてきており、若い年齢層にも受け入れられるような様々なものに応用されている。そのため本研究で提案するギフトボックスで用いる装飾は水引をモチーフにすることとした。

●試作

本研究の研究目的を達成するため、若者に贈答文化の大切さを気づいてもらい、贈答のサイクルを生み出すギフトボックスを本研究における提案物とする。

提案物のコンセプトとしては、「想いをきゅっとむすんで」というコンセプトを決定し、ギフトボックスの名称は「Qtto」とし、水引で想いを「きゅっと」結ぶという意味から考えた。相手への想いを込め水引を結ぶシーンを想起させる名前にしたいという理由と、名前から親しみやすさを感じてもらいたいという理由から結ぶ時の擬音を用いて名付けた。

贈る側が水引の結び方の意味を理解し、それぞれの贈答の場面に合わせて水引の結び方の異なるギフトボックスを選び、贈ることを想定している。また贈られた側もギフトボックスが届いた後、水引の結びの意味を知ることで贈る側の込めた想いに気付き、自身も誰かに贈り物をしたいという贈答のサイクルを生み出すことを本研究の目的とする。

試作のプロセスとしては、最初に提案物のコンセプトを検討し、ロゴマークやロゴタイプ、ギフトボックスのグラフィックデザインを検討した。その後ギフトボックスの展開図のデータを作り、出力を行い、実際に組み立てて箱の形状に問題がないことを確認した後、印刷や素材の検討を行なった。ギフトボックスの素材に関しては、自身で加工を行いながら裁断のしやすさ、折り曲げ加工のしやすさの観点から検討を進め、素材の候補をしぼった。その後、候補の素材に想定するグラフィックの印刷を行い、組み立てたモックアップを作製し、アンケートを実施し最終的な素材を決定した。

●調査

素材の検討と本研究の目的がどれだけ達成できているかを確認するため、素材ごとのモックアップ(図2)を用いてアンケート調査を実施した。

図2
図2 素材ごとのモックアップ

総合的にディープマット紙(ミストグレー)の評価が一番高かった。素材感も滑らかな素材で一番明るいトーンの素材で明るい印象であったため、最も贈答に適していると判断されたのではないかと考える。

「Qtto」の仕組みについて、単純な印象を抱いてくれた被験者が多かった。自身で包装しながらも簡単に贈れることが条件でもあったため、条件は満たしていると言える。また「Qtto」のアナログな仕組みに魅力を感じると回答してくれた人もいた。

試作品から提案の方向性は変えず、グラフィックの調整と調査結果を踏まえて素材の決定を行った。

●検証

製作いただいた「Qtto」に対して3パターンのターゲットを設定してシナリオを仮定し、実際に郵送の検証を行った(図3)。設定したターゲットには卒業研究の検証でギフトボックスを贈る旨をターゲットに伝え、それぞれ用意した贈り物を作成したリーフレットと共に「Qtto」に入れて郵送した。

図3
図3 検証した郵送物

届いた段階で連絡をしてもらい、連絡をもらった後、電話でターゲットと会話をしながら、インタビュー形式で調査を行なった。

試作品に対してのアンケート調査では「Qtto」の仕組みが簡単であり、誰かに贈りたいという想いを引き出すことができた。また、最終的な検証ではターゲットのもとに問題なく贈ることができた。そして「他の人にも贈りたい」または「この箱を使ってやりとりをしたい」という意見を得ることができたため、「Qtto」で贈答のサイクルを生み出すという本研究の目的は達成できたと言える。

●まとめ

本研究では、若者に贈答文化の大切さを気づいてもらうことを目的として、「贈りたい」を繋げるギフトボックスを提案した。

本研究をふまえてさらに研究を進めることができれば、ギフトボックスとして販売を行い、自分自身で相手への想いに合わせた水引の結びや色合いのボックスを選び、包み、送るという贈答の方法を提案することができると言える。

また、実際に販売する際には、プロモーションビデオを制作することと、切手などを同封して販売することで、ポストで贈ることに対して面倒な印象を持っている方も利用するハードルが下がると考えた。