2020年度 卒業研究

クリアバッグはなぜ流行したのか

人の心理面から魅力を考える

1711043 白幡 千晴

●研究背景

クリアバッグとは、透明な素材でできたバッグのことであり、2018年頃より流行したファッションアイテムである。 夏に街を歩くとクリアバッグを使用している人をよく目にするが、これらの中には「クリアバッグの中に直接私物を入れ、自分の持ち物が周りからえるように使用する」という使い方をしている人がいる。筆者はこのような使い方を見て、所有者の人物像を思い浮かべ、生活背景を覗いているかのような感覚を覚えた。このことから、他者に自身の持ち物を見せるというクリアバッグ使い方が、流行に何らかの形で結びついているのではないかと考えた。

●研究目的と研究意義

本研究では、「自分の持ち物を他者に見せる」というクリアバッグの使い方について、ジンメルの流行に対する考え方を参考に考察する。そして、他の流行アイテムとは違うクリアバッグの魅力を明らかにし、クリアバッグならではの流行の理由を利用者の心理面をもとに探ることを目的とする。

中身が透けてみえる素材を利用したクリアバッグというファッションアイテムが、利用者にどのような価値観を提供しているのかを考察することで、その魅力を新たなファッションアイテムの開発に活用することができると考える。以上が、研究の意義である。

●クリアバッグについて

本研究におけるクリアバッグとは、『PVC (ポリ塩化ビニル)や、ポリエステル、 TPU (熱可塑性ポリウレタン)素材で出来ており、中身の透ける「トランスペアレント」であるファッションを目的としたバッグのこと』 とする。この時中身が透けて見えれば色付きのものでもクリアバッグであるとするアンケート調査やクリアバッグは大きく分けて、2つの使い方に分けることができる。

図1・図2
図1 二重構造の使い方(左)/図2  ものを見せる使い方(右)

●変わるファッションと流行の仕組み

本従来のファッションの流行は、ジンメルの述べた「トリクルダウン理論」に則ったものであるとされた。これは、上流階級の者のファッションに憧れを抱いた階級の低い者たちが、そのファッションを模倣することで流行が生まれ、上流階級の者はまだ流行していない新しいスタイルを模索する。このサイクルが流行のサイクルとなっている、というもである。しかし、現代ではインターネットの普及や、消費者のファッションに対する意識の変化により、この理論だけではファッションにおける流行の説明ができなくなった。現在では階層を横断して同じスタイルが同時に流行するという「水平理論」や、下の階級の者から上流階級のものへと伝播していく「ボトムアップ理論」が提唱され、流行の仕組みが述べられている。

●クリアバッグの流行

クリアバッグは、従来のトリクルダウン的流行の作られ方のもとで流行素材として選ばれ、パリコレクションなどで発表された。その後、Instagramなどのインターネットを通して拡散され、大衆にも伝わり流行していった。現在は、パリコレクションのランウェイには登場しなくなったが、日本ではまだ夏になるとトレンドアイテムとしてクリアバッグが紹介されている。2018年からは規模は縮小しているものの、現在でも日本ではまだクリアバッグの流行は続いているといえるだろう。

贈る側が水引の結び方の意味を理解し、それぞれの贈答の場面に合わせて水引の結び方の異なるギフトボックスを選び、贈ることを想定している。また贈られた側もギフトボックスが届いた後、水引の結びの意味を知ることで贈る側の込めた想いに気付き、自身も誰かに贈り物をしたいという贈答のサイクルを生み出すことを本研究の目的とする。

●アンケート

現在クリアバッグを使用している人が何を気に入ってそのバッグを使用しているのか、人から見てクリアバッグはどのような印象を与えるのか調べるため、2020年7月2日から8日にかけて、SNSや学内にメールで呼びかけて、Googleフォームを用いてアンケート調査を行った。回答数は10代から30代の304件であった。このアンケート結果と、Excelの相関分析によるヒートマップにおける分析から以下のことが分かった。

透明やPVCという素材がもたらす季節感という見た目も大切な魅力の1つであるが、この透明のPVCという素材は作為的流行素材である。また、熊谷は『ファッションの流行情報(28)2018年春夏傾向』で、PVC素材のバッグも注目の素材であるが、キルティングバッグの方がより注目されたトレンドアイテムであると述べた。しかし、2018年の夏はPVCバッグ一色と言っていいほど雑誌やインターネットでPVCバッグの特集が組まれた。そこで、筆者はグループ2に注目し、クリアバッグならではの魅力を探るために、深堀りしていきたいと考えた

●仮説

ジンメルの両価説とは、『流行行動に参加する人間は周囲の人々への同調性を求める「模倣」の欲求と他者との差異や個別化を求める「自己表現」という正反対の欲求を併せ持っている。つまり、自分も周りの人と同じ行動をとっていることに安心感を持ちながらも新しく一般に普及していないという事実によって自分は何か新しいものを体現しているという満足感を持つ。』というものである。これは、流行に参加する人間は模倣によって他者と同調し安心しつつ、自分らしさを表現するために個性化を図るということである。「自分らしさを表現するために個性化を図っている」という言葉から「個性が出る」ということは「自分らしさが出る」ことであると言える。ここから筆者は2つの仮説を立てた。

●実験と半構造化インタビュー

仮説を検証するために、8名を対象に実験と半構造化インタビューを行った。その内容と流れは以下の通りである。

●結果と考察

実験結果の写真は図3の通りである(一部抜粋)。

図2
図3 実験で作成されたクリアバッグ

この実験とインタビューから、全ての被験者から「個性」を出す工夫がみられた。このことから、クリアバッグは誰でも「自分らしさ」を出すことができるバッグであり、どの程度「自分らしさ」を出すかは個人個人で調整することができることが分かった。それに加えて、クリアバッグの魅力は「バッグを自分でデザインする」という行為自体に存在する可能性があるということが分かった。

●結論

クリアバッグを使用している人は、ファッションマーケティングで作られた「透明感」「季節感」が気に入っている見ための魅力と、「自分らしさ」が出せる気持ちの魅力の2つに分けることができた。また、実験とインタビューから、クリアバッグは誰でも個性を出すことができるアイテムであり、個人個人によって違う理想の「個性」と「同調」のバランスが再現しやすいアイテムであると分かった。なお、実験をする上で新たな魅力が発見され、クリアバッグならではの魅力を探るために、更なる調査が必要であると考える。