2022年度 卒業研究

鯨の森

プロジェクションマッピングを用いた公園設備の提案

1911022 加藤 千暁

●背景

札幌市は地域によってみどりが非常に豊かなところは多くあるが、都心でより多くの市民がみどりを足りていると感じるかどうかいう課題がある1)。実際の緑被率(一定の広がりの地域で、樹林・草地、農地、園地などの緑で覆われる土地の面積割合で自然度を表す指標の一つ)を上げるとともに、市民が感覚的にみどりを豊かだと感じられることは重要である。例えば、大通公園の西8・9丁目のような、みどりが豊富な場所でも、何気なく歩いているだけではそのみどりを意識することは少ないかもしれない。そうした中で「自然」や「植物」などをアピールするような工夫があると、その空間のみどりをより意識するきっかけになるのではないかと考えた。「自然」や「植物」をモチーフにしたグラフィック表現が空間にあることによって、みどりというもの自体への意識や関心に惹かれ、その場にある樹木などの存在感が心の中では大きくなるのではないかだろうか。

●目的

本制作の目的は、公園の既存の設備を活用し、その活用の仕方次第で、空間に視覚的な楽しさを加えることができることを想定し表現することである。

また、空間のみどりが豊かであると意識させることをコンセプトとした映像をプロジェクションマッピングで既存の公園遊具に投影することを想定し、そのイメージを表現することを目的の手段とする。

●本制作のコンセプト

本制作は、札幌市の掲げる「都心のみどりづくり方針」による、『各拠点に適したみどりづくりや良好なオープンスペースの創出を実現する』という観点と、「第4次札幌市みどりの基本計画」2)で示される資源の有効活用という観点から着想を得たものである。

●制作内容

本制作は大通公園9丁目にあるプレイスロープ(図1)に、「自然」や「植物」をモチーフにした映像をプロジェクションマッピングで投影することを想定する。実物のプレイスロープの大きさは、縦20.75m、横33.25mである。実際に投影用の映像をつくり、それを簡易的な模型に投影し全体イメージを確認する。実際のプレイスロープで実演することは難しいため、実現した時のイメージを表現する。9丁目は大通公園の中でも比較的みどりの多い空間で、歩く人や遊んでいる人がその空間をみどりが豊かであると感じるような映像を投影できればと思い制作に臨んだ。

図1
図1 大通公園のプレイスロープの様子

映像の内容は、このプレイスロープのある空間の名前である「鯨の森」をテーマに、自然やみどり、そして鯨をはじめとする生物を盛り込んだものである。

実施時期はプレイスロープが冬期に閉鎖されている期間以外で、時間は天候などにもよるが、午後15時から夜21時にかけて15分おきに映像が流れることを想定する。

該当のプレイスロープは、全体的に横長の構造で、端から登った際にどこからでも滑ってあそぶことができるのというのが大きな特徴である。今回制作した映像は1つの場面においても、数種類の生物やラインアニメーションなど、いくつかの要素で構成されており、子供たちがプレイスロープ上のどこで遊んでいても楽しめるよう、映像中の動きを分散させることを意識した。

映像は大まかに3つのシーンで構成されている(図2)。白いプレイスロープに雫が徐々に落ちてくるシーンから、鯨などの生物が泳ぎ回るシーンに移り変わり、最後はみどりが豊かになっていくグリーンのシーンである。また、映像の色に関しては、植物などを描写する際にこの映像が札幌の風景の一部であることをイメージして「札幌の景観色70色」を使用している。

図2
図2 映像の構成イメージ

そして制作した映像を、プレイスロープスクリーンの模型に投影する。以下が展示の様子である(図3)。また、実物のプレイスロープに投影したイメージ画像を制作した(図4)。

図3
図3 展示の様子

図4
図4 プレイスロープに投影したイメージ

●まとめ

本制作の結果として、実物のプレイスロープへの実演はできなかったが、提案のイメージは、模型への投影で表現することができたため、公園設備の活用方法を示すことができた。また、どのシーンでもみどりを感じさせるグリーン系の色を使用しており、札幌の景観色や代表的な植物を取り入れることで、札幌らしいみどりの豊かさが感じられる作品ができたと考える。

本制作の提案が、実際に大通公園のプレイスロープで実現した時には、既存の遊具の活用の仕方として、その後の公園整備や機能分担において活かすことのできる事例になると考える。一部地域に密集した街区公園は、休憩スペースを主とした公園などに再整備する事案もあるため、今回のような映像を使用した視覚的にも、実際に遊んでも楽しい工夫は都市公園だけでなく身近な公園にも活かしていける。また、小さな面積の身近な公園でも、踏んで遊べるような映像を制作し、地面に向けて投影するだけで、遊具のような設備を一つ設置することができる。

都心のみどりを創出する観点では、実際に植栽等を増やし面積当たりのみどりの割合を大きくすることに加えて、映像やアートなどの視覚的要素がもたらすことで、より市民の感じるみどりの量は豊かになるのではないか。また、映像の評価アンケートでは、みどりに関連する回答もあったが、「水槽」や「クジラ」などみどりとは別の要素に印象が偏ってしまった回答もあった。このことから、みどりを意識させるための視覚的演出として、自然以外の要素を多用すると、目的とは外れた印象を与えかねないことを踏まえて、映像の要素を設定することが重要である。